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名古屋高等裁判所 昭和37年(う)35号 判決 1962年5月30日

控訴人 被告人 新井三秀こと朴三秀

弁護人 野村均一 外一名

検察官 三笠三郎

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人野村均一及び同大和田安春共同作成名義の控訴趣意書に記載するとおりであるから、ここに、これを引用することとし、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

控訴趣意第一点について、

所論は、被告人が原判示鉄製鋲打銃に装填する火薬である空包の消費許可を受けていなかつたとして、被告人が右空包を装填して前記鋲打銃を爆発させた所為を昭和三五年八月法律一四〇号による改正前の火薬類取締法二五条一項、五九条五号(以下単に火薬類取締法というのは、この改正前のものを指称する。)により処断しているのであるが、被告人は当時の勤務先である中央電気工事株式会社の事業の執行に関し本件所為を行つたもので、同会社は同法二五条一項にいう火薬類の消費者として所定の愛知県知事の許可を受けているのであるから、同会社の使用人たる被告人が、同会社の事業の執行についてした本件所為が、火薬類の無許可消費として処罰されるべき理由はない、というのである。

なるほど、当時被告人が雇傭されていた中央電気工事株式会社において、昭和三五年二月一日から同年四月三〇日までの間、電気器具取付のため、原判示興亜化学株式会社内において、鋲打用空包二百個を消費することの許可を愛知県知事から受けていたことは、本件記録上明らかなところである。そして、被告人の原判示空包の爆発(消費)が右許可に係る消費場所である興和化学株式会社新築名古屋工場三階蒸溜室において、電気器具取付のため同室東側壁に鉄製鋲を打込むため、すなわち、右中央電気工事株式会社が当時請負つていた電気工事施設施行のため、その事業の執行としてなされたものであることも、原判決引用の各証拠に徴し明らかである。さて然らば、かかる場合、被告人の勤務先である中央電気工事株式会社において火薬類取締法所定の火薬類の消費許可を得ていたことの故を以つて、被告人の前示空包の消費が適法とされるものであろうか。なるほど、火薬類取締法二五条は、火薬類の消費者は、都道府県知事の許可を受けなければならないと規定しているが、その消費者として許可を受けるべき者については、別に制限はなく、従つて、自然人たると法人たるとを問わず、その消費者としての許可を受けられることとなつている。本件も又法人たる中央電気工事株式会社に対し前記の如くこの消費許可がなされているわけである。ところで、このように、法人に対して消費許可がなされた場合、法人自らが火薬類の消費(自然的行為として)をするわけのものでなく、該法人の使用人において、その消費行為にあたるものであることは、当然である。(勿論当該法人の事業の執行外でこの消費行為が行われる場合は、格別である。)そこで、問題は、火薬類の消費許可を受けた法人の事業の執行に関するものであれば、その使用人の何人たるとを問わず右火薬類を消費することも許容されているものと解せられるかどうかということが、本件の争点となるわけである。さて、右二五条二項によれば、都道府県知事は、火薬類の爆発又は燃焼の目的、場所、日時、数量又は方法が不適当であると認めるときその他その爆発又は燃焼が公共の安全に支障を及ぼす虞があると認めるときは、同条一項の消費の許可をしてはならないと定め、同法四八条によれば、右二五条一項の許可には、条件を付することができる旨を定め(但し、その条件は、災害の防止又は公共の安全の維持をはかるため必要最少限のものでなければならないが<四八条二項>)ているので、都道府県知事としては、右許可の条件として災害防止のため火薬類の消費取扱について特別の制限を付することは、勿論その権限内に属することとしなければならない。然るに一方火薬類取締法施行規則(昭和三五年一二月通商産業省令一二四号による改正前のもの)四八条一項によれば、法二五条一項の規定による火薬類の消費の許可を受けようとする者は所定の要式による火薬類消費許可申請書を消費地を管轄する都道府県知事に提出すべきものとされ、その消費許可申請書の方式は法定され(同規則別表12)、特にその申請書には、危険予防の方法について明示すべき旨が要求されているのである。そして、右四八条二項によれば、火薬類の消費許可を受けた者が、前示許可申請書の記載事項に変更があつたときは、遅滞なくその旨を都道府県知事に届け出なければならないものとされているが、その届出を要求される変更事項の中で、特に消費の目的、場所、日時および危険予防の方法については、これを除外しているのである。(その理由については後で見るとおりである。)火薬類の消費について、このように火薬類取締法が許可制とし、しかもその許可については災害防止のため一定の条件を付することができるものとし、かつ、これに対応し消費許可の申請について、特に危険予防の方法について明記することが要求される所以は、火薬類の本来の性質、効用に鑑み、火薬類取締法一条の所期する災害の防止と公共の安全の確保のため、火薬類の消費許可については、特に許可を受けるべき者の講ずべき危険予防の方法が許可の採否をきめる場合の重要な基準の事項となるからである。このことは、前示許可を受けた者が許可申請書の記載事項に変更を生じた場合遅滞なくその変更された事項を届け出なければならないものとされているのに、ことさら、その届出を要する事項の中から、「危険予防の方法」に関する事項だけを除き、すなわち、右の場合には、単なる許可申請事項の変更と認めず、すなわち、消費許可と許可の条件となる危険予防の方法とを不可分一体のものとして、後者の変更は、単なる許可条件の変更ではなく、むしろ、既になされた許可自体がその限りにおいて、失効するものと認めたことに徴するも明認できるところである。(なお、右規則四八条三項所定の許可申請書の記載事項の変更届出義務の中で、特に消費の目的、場所、日時および「危険予防の方法」の変更について、これを除外した所以を、これらの事項については、許可申請書の記載事項に変更を生じたとしても、その変更の旨を届け出る義務はなく、従つて、その変更前の消費許可により有効に火薬類の消費が許されるものと解することは、右除外事項以外のそれほど重要でない事項の変更の届出を怠り、火薬類を消費した場合には、その結果として火薬類取締法六〇条の制裁があるのに、それにもまして重要な事項である前記除外事項の変更の場合には、かかる制裁はないこと、及び、同法並びに同法施行規則全体の精神から考えてとうてい首肯できないところである。)そして、右危険予防の方法として、火薬類の消費の許可を受けた者が、現実に何人をしてその消費の取扱をさせるかということも重要な内容となつてくる。蓋し、火薬類取締法は、少量の火薬類の消費については、特に取扱保安責任者(同法三〇条二項、三項)の制度を設けてはいないが、火薬類の消費については、これを危険予防の観点から考えるとき、消費者が何人であるかということは勿論として、それにもまして現実に火薬類を取扱い消費する者が何人であるかということが重要な要素となることは説明を要しないことであるからである。

以上の次第であつて、火薬類の消費許可について、危険予防の方法について定められた条件は、この条件を遵守する限りにおいて右許可は有効なものであり、反面、火薬類の消費取扱がこの条件に違反する場合には、その限度において既になされた消費の許可は当然に無効となるものと解するのが相当である。このように考えてくると、火薬類の消費許可申請について、危険予防の方法として、特に、火薬取扱者を定め、消費許可が右の火薬類取扱者以外には、火薬類を絶対に使用させない旨の条件を付している場合、そこで指定されている火薬取扱者以外の者に、火薬類を取扱い消費させた場合には、その消費は、その限度において許可なくして行われたものと解されるわけである。従つて、又法人において火薬類の消費許可を受け、その許可の条件として危険予防の方法として火薬類の取扱者を指定する場合には、その指定された取扱者以外の者において、当該法人の業務に関し火薬類を取扱い消費することは、許可なくして火薬類を消費したものというべきである。さて、本件において、中央電気工事株式会社に対する火薬類である空包の消費の許可は、取扱者を田中正行、稲垣征市と定めて消費許可の申請がなされ、危険予防の方法として同人ら以外には絶対に火薬類を取り扱わせ又は使用させないことを条件として許可がなされ、又工事施行の実際においても同人ら以外に空包を用いる鋲打銃の使用を禁止していたことは、原判決引用の証拠及び中央電気工事株式会社より提出された火薬類消費許可申請書、同計画書、火薬取扱者届(いずれも謄本)により明らかである。そして、被告人が右取扱者以外の者であり、本件当時前記田中、稲垣らが現場に不在中、被告人独断で、原判示場所で、電気器具取付のため原判示鋲打銃を使用するため空包を爆発させたものであることも(もつとも、被告人は右田中が不在中には屡々これを使用していたことも記録上看取されるところである。)又被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書により明らかである。

従つて、この場合の被告人による空包の爆発が、中央電気工事株式会社に対する火薬類の消費許可のあつたことを及びその空包の爆発が同会社の事業の執行に関してなされたことを理由として、所定の許可のある火薬類の消費に当るものということを得ないもので、それは、既に説明したとおり許可なくして火薬類を消費した場合に該当するものといわなければならない。なお、論旨は、中央電気工事株式会社において火薬類の消費許可を受けている以上、たといその許可条件に反して火薬取扱者以外の被告人において、これを取扱つたとしても、右消費許可が取消されない以上、被告人の消費は消費許可に基くものというべきであるというが、その主張の当らないことは既に説明したとおりであるし、又日時、場所を定めた特定の火薬類の消費を対象とする許可については、火薬類が現実に消費されてしまえば、それまでであつて、許可による事前の抑制は可能であるとしても、許可の取消による事後の抑制は、一般に無意味であり、しかも、火薬類取扱者以外の者が偶々火薬類を取扱い消費する場合に、それに備えて事前に許可の取消を行うというが如きことも又一般に不可能なわけであるから(但し、火薬類取締法二五条三項は、事後の事情の変更により火薬類の爆発又は燃焼前に限り消費許可の取消がなされることのある旨を規定しているが、その場合は、本件の場合と全く事情を異にするのである。)、既に見た如く消費許可の条件となつている火薬類取扱者以外の者の取扱い消費については、許可の取消の行為を容れず、その限度において許可は無効となるものというべきであり、論旨に賛成することはできない。

ところで、火薬類の消費許可を受けた法人の業務の執行について、その許可の条件(特に危険予防の方法に関する)に違反して、火薬類取扱者以外の使用人が火薬類を取扱い消費した場合において、当該使用人を、-本件の場合の被告人-直ちに火薬類取締法二五条一項違反として同法五九条五号により処罰できるかどうかについては、消費許可の対象が法人とされている関係上<もつとも、自然人を対象とする場合でも、その使用人については同じであるが>多少問題はあるが、右五九条には懲役刑の定めもあり、行為者としての自然人の処罰を前提としていること、同法六二条(いわゆる両罰規定)は、五二条の違反行為のある場合行為者その人の処罰を規定していること等に鑑みるときは、行為者自身前記罰条により処罰されるものと解すべきである。本件において、原判決が被告人を火薬類である空包の無許可消費をした者として処罰したのは、固より正当というべく、論旨は理由がないものとしなければならない。

同第二点事実誤認の主張について、

所論は、被告人が本件鋲打銃により鉄鋲を打ち込んだ原判示壁が原判示の如くコンクリート壁ではなくラス張り壁であることは、外観、接触等によつては認識することは困難であり、しかも、本件被害者が右発射当時その壁の反対側に待避していたことは、被告人としては予見不可能であつたわけであるから、本件において被告人に過失の責はないというのである。

然し、この点については、原判決が認定するとおり、本件鋲打銃によリ発射される鉄製鋲は、長さ約八、二糎、直径約一糎の先端が尖つているもので、これを、内部が空洞のラス張り壁に向けて発射する場合には、その発射力(元来コンクリート壁に右鉄製鋲を打ち込むためにその発射力が利用されるのである。)により、該鉄製鋲は壁を貫徹し、その鋭角の物体が人畜に射込まれたときには優にこれを殺傷するに足りるもので、その使用自体高度の危険を伴うものであることは経験則上明らかなところである。従つて、これを使用する場合には、その鉄製鋲の打ち込まるべき壁等の性質、構造、堅固さ等について、周到な検討をしなければならないのは当然であり、唯単に所論の如くその外見に頼り軽々にこれを判断することは許されず、場合によつては、これを叩いてみるとか、設計施行者に問い合わせるとか又は設計書について更にこれを確認する必要のあることは当然である。従つて、本件の壁が外見上容易にラス張りであることを認識し得なかつたとしても、被告人において、これを確認するについて前示の周到な配慮を欠いた以上、被告人の過失責任を否定するわけにはいかない。次に、本件被害者である生倉文雄が本件事故当時本件事故現場とは異る一宮市の工事現場を担当していたとしても、被告人が本件鋲打銃を使用した工事現場には、人の出入りもあつたわけで、前示壁の反対側の室に人が存在する事態のあることは被告人として、当然予見可能なところであり、しかも、被告人としては前示の如き危険物を取り扱う場合にはその発射の対象となる壁と反対側の部屋に人の存在するか否かについても又これを確認しなければならないものというべく、(蓋し、貫通の危険はその反対側の部屋について生じるからである)所論の如き事情により被告人が生倉文雄の存在を予見しなかつたとしても、所論の如くこれを予見不可能の事態であつたとすることのできないのは勿論、却つて壁と反対側の部屋に人が存在するか否かを確認しなかつたこと(被告人がかかる確認の方法を講じたならば右生倉文雄の存在することは容易に知り得たはずである。)こそ被告人の不注意というべきであるから、本件について、被告人の過失責任を否定することのできないのは蓋し当然である。記録を精査してみても、被告人について原判示の過失責任を肯定すべき前提事実の認定について、所論の如き事実誤認のかしは認め難い。論旨は理由がない。

同第三点法令違反の主張について、

所論は、本件火薬類取締法違反の所為と業務上過失致死の所為とは想像的競合の関係にあるものとして起訴されているのに、原判決がこれを併合罪として処断したことは、訴訟手続の法令違反があるばかりでなく、両罪の罪数について法令の適用を誤つたものである、というのである。

なるほど、本件起訴状には原判示火薬類取締法違反の所為と業務上過失致死罪の行為とを別項目として書き分けず、通常併合罪の起訴の場合の記載方法として用いられる記載が採られていないことは、所論のとおりであるが、それだからといつて、本件において両罪が所論の如く想像的競合の関係にあるものとして起訴されたものとみることは相当ではなく、両罪は、併合罪の関係にあるものとして起訴されているものと解するのが相当である。(そして、仮りに両者が想像的競合の関係に在るものとして起訴されたとしても、これを併合罪として処断するについては、所論の如く訴因の変更手続を必要とするものではない。蓋し、それは、単に起訴された訴因についての法的評価に関することがらであるからである。)そして、本件の場合火薬類の無許可消費自体が、直ちに被告人の本件過失を構成するわけではなく、過失に当る行為は、右無許可消費とは別異の関係において成立しているものであるから、原判決がこれを併合罪の関係にあるものとして処断したことはまことに相当というべく、原判決には所論の如く違法のかどは存しない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条に則り本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 影山正雄 裁判官 谷口正孝 裁判官 村上悦雄)

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